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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

(9)和食ピクニック


半日ガイド体験記 (2004年6月の記録)

 ∬第9話 和食ピクニック 

最後の訪問箇所、ビーチパークへ向かった。
このビーチパーク内にあるピクニック・エリアか、浜辺でパラソルを借り、ピクニックを済ませ次第、一行はアンタルヤを離れパムッカレへ発つのだった。

お客様の一人から、再び質問が飛んだ。
「こんなに穏やかな気候なのに、ここには冬もあるんですか?」
待ってました、とばかりに、私は冬の気候の激しさについて説明した。

毎年11月頃から雨のシーズンが始まること。12月から1月、2月頃までの2~3ヶ月間は特に暴風雨の季節だということ。
今年の冬は、1ヶ月の間に3回も大きな暴風雨が襲い、洪水、住宅浸水、橋の倒壊など大きな被害をこうむったこと。空港の屋根が飛んだり、ミナーレが崩れ落ちたりしたこと。

トルコは風速を時速で表すのだが、平均風速100km/hという強い風が吹き、海に面した窓ガラスは大きくたわみ、今にも割れるのではと恐ろしくなるほどだということ。多くの家で、鎧戸が吹き飛ばされたり、窓が突然開いて閉められなくなったりしたこと。
我が家では、しなった窓の下から雨が滝のように流れ込んできて、雨水の処理が大変だったということ。

しかし、5月以降9月頃まで雨が一滴も降らないこの地では、冬の暴風雨があるからこそ必要な水量が保たれ、豊かな実りが得られているのだということ。
一方、太陽の光に恵まれているだけに、各マンションの上には必ず太陽熱温水器が取り付けられ、3月頃から10月一杯までお湯を供給してくれること。
ついでに個人的な考えとして、アンタルヤこそ太陽熱発電が向いている土地なので、日本企業が安い太陽熱発電機を開発して売り込んでくれると嬉しい、ということも付け加えた。

眼下にビーチパークが見下ろせた。博物館から目と鼻の先に位置するこの地点は、アンタルヤの代表的風景を味わえる絶好のビューポイントである。
山水画のような峰々を見せるベイ山脈、その山裾から美しい弓なり状を描きながら延々と延びるコンヤアルトゥ海岸。海岸沿いに規則正しく開いたビーチパラソルの花。そして一番手前には、ビーチとレストラン、カフェ、クラブ、ディスコなど遊行施設の集合体としてオシャレに整備された『ビーチパーク』が広がっていた。
バスの後ろの方で、「ワア~!」という歓声が聞こえた。

日曜ともあって、帽子にビーチサンダル、ビニールバッグを提げた、見るからに海水浴客と思しきたくさんの人がビーチパーク目指して歩いていた。
青く輝く海を眼下にしながら、ヘアピンカーブの道を右に左にゆっくりと下りていくビーチパークへのアプローチは、誰にとっても心の浮き立つ瞬間となる。
バスの中はしばし無言となった。

エントランス・ゲートを通り、駐車場にバスを停めた。
ピクニックに相応しい場所を探しながら、とりあえず海の方角へ歩いていくことにした。じきに、何本かのユーカリの大木が大きな影を落としている草地が見えた。
「丁度いいじゃない。涼しそうなところが見つかったわ」
その場でピクニックをすることに決めると、横田さんとビルゲさんがお客様を誘導した。

ご希望のお客様を何人かトイレにお連れして戻ると、驚いたことにピクニックの支度が見事に整えられていた。
各自に海外旅行用のおにぎり1箱(2個入り)。その他におかずとして横田さんはたくさんのパック惣菜を日本から持参してきていた。
きゃら蕗、筍の煮物、お多福豆の煮物、梅干、沢庵、昆布の佃煮など。暑さでいたまないように、ホテルに着いたらすぐ冷蔵庫に入れ、ここまで持たせてきたのだという。
惣菜を入れるための発泡スチロール製のどんぶりや取り分け用のお皿、そしてもちろん割り箸まで日本からわざわざ持参したものだ。

横田さんの苦労に頭が下がった。これらを15人分持ち運ぶだけでも大変なのに、お湯を注いだり箱に詰めなおしたりの作業を必要とするおにぎりの準備で、昨夜はつぶれてしまったに違いなかった。
「あなたの分もあるのよ。遠慮しないで召し上がって」
家に残してきた目加田さんと子供たちの顔が浮かんだが、横田さんの好意を受けとり、有り難くご馳走になることにした。
「お~いし~い!」
久し振りに食べる和惣菜は、口に入れるとなんともいえぬ懐かしい味と香りがした。

 (つづく)

∬第10話 最後の仕事


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